第2話 満員電車での恥ずかしい記憶|「布の奥、感じる形」

春の陽射しが柔らかくなり、通勤電車の中にも少しずつ季節の移ろいを感じるようになっていた。

ひかりも、スーツのパンツスタイルから、ふんわりと揺れるベージュのフレアスカートへと装いを変えていた。足元にはベージュのパンプス。白のとろみ素材のブラウスは、胸元が控えめに開いており、上品さの中にどこか柔らかさを含んでいた。

(昨日の……あれは、夢じゃなかったよね)

心の中に、否応なしに蘇る“あの指先”。 混雑に紛れて押し付けられたぬくもり。 そして、止まる駅ごとに繰り返される寸止め。

(でも、あんなの、変な人にたまたま……触られただけで……)

否定しようとする意識とは裏腹に、ひかりの身体は、 今朝、家を出るときからどこか落ち着かなかった。

(このスカート……ゆるいかな。裾、けっこう揺れるし)

けれど、選んだのは自分だった。

混雑が始まる時間、無意識に乗り込んだのは、昨日と同じ車両。 しかも、昨日と同じポジション。

(……まさか、またなんて)

しかし、その“まさか”は、あまりに自然な形で訪れた。

ぎゅう、と身体ごと押し込まれた瞬間。 背中に触れた“熱”。 腰のあたりに感じる、ぬるりとした存在感。

(いる……)

昨日の“あの人”。

ひかりは反射的に身じろぎしたが、車内の密度は逃げることを許してくれない。

そのときだった。

スカートの裾の内側、太ももに、そっと指が忍び込んできた。

(……やっぱり……!)

けれど、声にはできなかった。

指先は、まるで挨拶でもするように優しく太ももをなぞる。 そして、ふわりと布の上から、下着の端を見つける。

(ダメ……これ、ほんとに……ダメなやつ……)

なのに。

指はゆっくり、でも確実に動く。

下着越しに、谷間のかたちを確かめるように。 わざとらしくはない。 まるで偶然を装っている。 だが、確かに“そこ”を、撫でている。

(なんで……こんなに……)

くすぐったくて、でも、ぞくっとする感覚。

駅に停まる。 その瞬間、指はぴたりと動きを止める。

再び電車が動き出すと、指もまた、静かに再開される。

(……うそ……これ、また……)

人混みに紛れた、沈黙の攻防。

その寸止めのリズムが、次第にひかりの身体に染みついていく。

(また来る……次の駅で……)

予感は裏切られない。

駅のベル、ブレーキの振動。 そして、止まった瞬間にふっと止まる指。

(……どうして……止まるの……)

その“止まり”が、ひかりの中に小さな熱を残していく。

(続き……ほしかった、の……? わたし)

自分の内心に、驚きと羞恥でいっぱいになる。

再び、電車が動き出す。

そして、指も──再開。

今度は、下着の奥へとゆっくり沈むように。 でも、決して直接は触れない。 柔らかな布の上から、 その“奥のかたち”を探るように、転がすように動いてくる。

(う……く……っ)

足元がわずかにふらつく。

その瞬間、ぴたりと指が止まり、手が抜ける。

(……寸止め……また)

でも──

(あれ、わたし……濡れて……る?)

確信はない。

けれど、布越しに感じた感触。 自分の中に生まれている異物感。

(どうしよう……これ、ほんとに……)

満員電車。 誰にも言えない羞恥。 誰にも止められない悪戯。

そして、

──誰にも見られないところで、感じてしまっている自分。

それが、なによりも恥ずかしくて、でも、抗えなかった。