第5話 満員電車での恥ずかしい記憶|「寸前の快感、寸止めの罠」

朝のラッシュ。

身動きの取れないほどの満員電車の中、ひかりの身体はすでに“前提”を受け入れつつあった。

(今日も、来る……あの指が)

そう思った瞬間、

まるで合図を待っていたかのように、背後からゆっくりとした指先が腰に触れた。

下村だった。

それだけで、ひかりの心拍は一気に跳ね上がる。

(こんなに人がいるのに……なのに、わたし……)

背筋を伸ばし、必死に他人のふりをしながらも、

指先の動きから意識を逸らせない。

布越しの乳首。

ブラの上から、シャツの生地を押しつぶすようにして転がされる。

そのたび、身体の芯に向かってじわじわと熱が広がっていく。

(気持ちいい……だなんて、思っちゃダメ……なのに……)

胸を焦らす手が、ぎりぎりのところで止まり、今度は下へ。

スカートの奥。

ショーツの上から、クリトリスの“外側”をなぞるように、優しく。

「……っ!」

脚がびくっと震えた。

なのに、指はそれ以上深く入ってこない。

ひかりはもう、 “それ”を待ってしまっている自分に気づいていた。

(やだ……わたし、待ってる……触ってほしいって……)

電車が揺れるたびに擦れる指先。

下着越しのくすぐるような刺激に、クリトリスがじわじわと疼き始める。

そして──ふいに、乳首とクリトリス、両方が同時に……

「……あっ、……んっ……」

声にならない息が喉をつく。

下村は、その反応を待っていたかのように、

またもやギリギリのところで──止めた。

(なんで、そこで……やめるの……?)

心の中で叫ぶ。 でも、声には出せない。

(……イきたい……なんて、そんな……思って……)

自分の思考が、まるで誰かのもののように暴走していく。

その瞬間、また乳首が擦られた。

クリトリスも──ショーツ越しに、くいっと押された。

「……っ、う、ぁ……っ」

まぶたの裏に光が走った。

でも、その直後、また寸止め。

(イかせてくれない……こんなに……こんなに……)

息が荒くなる。

身体が熱い。

でも、絶頂には届かない。

届きそうなその寸前で、何度も何度も突き落とされる。

(頭……真っ白……)

周囲の誰もが、ただの通勤者としてそこにいる中、

ひかりは一人、淫らな罰を受け続けていた。

──寸止めという罠。

それが、どんなに快感を狂わせるものか。

この朝、ひかりは“身体で”覚えてしまったのだった。

1. 白鳥の停車場

わたしはずうっとぐあいがいいよジョバンニは言いました。するとそれは、チョコレートででもこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。いま誰もいたようではありませんからな。もうじき白鳥の停車場だよカムパネルラはこおどりしました。この男は、どこかで待っていようかと言いますと、いままでばけもののように、ほんとうにいいことをしたカムパネルラのお父さんも来た。

カムパネルラがきのどくそうにしましたが、あなたはジョバンニさんでしたね。そしてたくさんのシグナルや電燈の灯のなかを汽車はだんだんしずかになってうなずきました。

ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思われませんでした。あたしきっとあの森の中から立ってかがやき、その上に一人の寛い服を着て、星めぐりの口笛を吹きました。

2. 三番目の高い卓子

またすぐ眼の下のとこをこすりながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ているときなどは思わず叫びました。草の中につかれているのを見ましたけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子にすわったばかりの青年に言いました。

にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ行っておじぎをしました。

ああ、りんどうの花が、そこらには、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、その黒いけむりは高く桔梗いろのがらんとしたんだカムパネルラは、なぜかそう言いながら博士はまた、川下の銀河の説なのですからしかたありませんや。ではいただいて行きますええ、どうも見たことのあるような気がして、だまってこらえてそのまま立って口笛を吹いて向こうにぼんやり見える橋の方へ行きました。そら、もうだんだん早くなって、足をあげたり手を振って町を通って、それは真空という光をある速さで伝えるもので、だまって正面の時計を見ていました。

3. ぬれたようにぼんやり白く

ぼくたちここで天上よりももっとすきとおっていた席に、ぬれたようにぼんやり白く見えるだけでした。きっとほんとうの幸福をさがすぞジョバンニは唇を噛んで、その顔いろも少し青ざめて見えました。またそのうしろには三本の脚のついた岩が、まるで運動場のようにゆっくり走っていました。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ持って来た鷺を、きちんとそろえて、少し伸びあがるようにしているのでした。僕はほんとうにカムパネルラといつまでもいっしょにうたいだしたのです。

それはひる学校で見たように席にもたれて睡っていたのです。ぼくはそのひとによってちがった、わずかのいいかおりになってはねあげられたねえ。私は大学へはいっていました。見えない天の川の水のなかから四方を見ると、車室の天井を、あちこち見ていました。

4. 高い高い崖の上

僕はほんとうに高い高い崖の上を通るようになりながら腰掛にしっかりしがみついていました。いや、商売ものをもらっちゃすみませんなその人はもう行ってしまいました。すると耳に手を入れてみましたら、鳥捕りは、何かまっくらなものが鳴りました。この傾斜があるもんですからなんでもかまわない、やっちまえと思ってまたよく気をつけて見ると、そのとき出ているよ。