第1話 シャッターの熱、レンズの愛撫
■始まりは、一本のメールから
レースクイーンに興味があったわけじゃなかった。 むしろ、露出の多い衣装には抵抗があったし、誰かに見られることなんて、得意な方じゃない。
だけど、友人に「簡単な撮影で高収入だよ」と言われ、軽い気持ちでエントリーした。 送った写真は、制服姿のセルフィーと、プロフィール。
数日後、返ってきたのは、やたら丁寧で、でもどこか熱を帯びた一通のメールだった。
『あなたの透明感が、今の自分の作品に必要だと感じました。もしよろしければ、一度、ポートレートの撮影からご相談させていただけませんか』
差出人は、Kというカメラマン。 どこかで名前を聞いたことがあるような……そんな曖昧な記憶が、かえって安心感を誘った。
■初めてのスタジオで
指定されたスタジオは、都心の雑居ビルの中にあった。 エレベーターの扉が開くと、空調の効いた静かな空間。
「初めまして、Kです」
現れたのは、想像よりも若く、けれど落ち着いた雰囲気を纏った男性。 眼差しがまっすぐで、少しだけ見つめられただけなのに、心がすうっと見透かされたような気がした。
「今日はラフなポートレートから撮らせてもらうね。まずは私服で、自然な笑顔をもらえれば」
スタジオの奥には、白い背景布と三脚が立てられた撮影スペース。 照明があたると、思ったよりも自分が“被写体”になることがリアルに感じられた。
■レンズの奥の視線
「うん、いいね、その表情」 「首を少し傾けて。そう……自然体がいちばん魅力的だから」
K氏の言葉は優しく、でもどこか“癖”になる響きだった。 褒められるたびに、笑顔がほんの少しずつ深くなっていくのを、自分でも感じる。
撮られることに、少しずつ快感を覚え始めていた。
(私、見られてる……しかも、気持ちいい……)
ただの趣味で送った写真。 それが今、プロのカメラマンに見つめられている―― その事実が、どこか秘密の高揚感を伴っていた。
■次の衣装は、タイトなボディスーツ
「少しだけ雰囲気を変えてみようか」
そう言われて渡されたのは、黒いタイトなボディスーツ。 肩や腰のラインがぴったりと出る、露出のないはずなのに妙に艶かしい衣装だった。
「着替えはあちらで」
更衣室に入り、鏡の前で衣装に袖を通す。 思っていた以上に身体のラインが出て、思わず腕で胸元を隠した。
(こんな格好……恥ずかしい)
でも―― どこか、ゾクッとするような感覚が背筋を這いのぼった。
■変化の始まり
「その緊張感、すごくいいよ」
レンズ越しのK氏の目が、じっと胸元のラインに向いていた。 だけど、いやらしさはなかった。 その視線には、もっと別の――欲望に似た何かが宿っていた。
「……胸、ちょっとだけ強調してみようか。腕、少し寄せる感じで」
言われた通りにポーズを取ると、スーツの生地がきゅっと張って、谷間の陰影が強調される。
(あ……見られてる……)
不意に、脚の奥がきゅっと疼いた。 誰にも触れられていないのに、どこか敏感なところが、じんわりと熱を帯びていく。
■「もっと、見せて」
「次回、ちょっと雰囲気の違う衣装での撮影、してみない?」
K氏の言葉は、提案ではなく“導き”のように感じた。
「露出は少し増えるけど、君の透明感なら絶対に上品に仕上がる。嫌だったらもちろん断ってくれていいよ」
断る理由が思い浮かばなかった。 それどころか、次の撮影が――その視線が、どんな“自分”を引き出してくれるのかが、知りたくなっていた。
(もっと見られたい……この人のカメラで、わたしの奥を引き出してほしい)
その瞬間、私は確かに、なにかの扉を開けてしまったのだった。
1. 白鳥の停車場
わたしはずうっとぐあいがいいよジョバンニは言いました。するとそれは、チョコレートででもこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。いま誰もいたようではありませんからな。もうじき白鳥の停車場だよカムパネルラはこおどりしました。この男は、どこかで待っていようかと言いますと、いままでばけもののように、ほんとうにいいことをしたカムパネルラのお父さんも来た。
カムパネルラがきのどくそうにしましたが、あなたはジョバンニさんでしたね。そしてたくさんのシグナルや電燈の灯のなかを汽車はだんだんしずかになってうなずきました。
ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思われませんでした。あたしきっとあの森の中から立ってかがやき、その上に一人の寛い服を着て、星めぐりの口笛を吹きました。

2. 三番目の高い卓子
またすぐ眼の下のとこをこすりながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ているときなどは思わず叫びました。草の中につかれているのを見ましたけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子にすわったばかりの青年に言いました。
にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ行っておじぎをしました。

ああ、りんどうの花が、そこらには、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、その黒いけむりは高く桔梗いろのがらんとしたんだカムパネルラは、なぜかそう言いながら博士はまた、川下の銀河の説なのですからしかたありませんや。ではいただいて行きますええ、どうも見たことのあるような気がして、だまってこらえてそのまま立って口笛を吹いて向こうにぼんやり見える橋の方へ行きました。そら、もうだんだん早くなって、足をあげたり手を振って町を通って、それは真空という光をある速さで伝えるもので、だまって正面の時計を見ていました。
3. ぬれたようにぼんやり白く
ぼくたちここで天上よりももっとすきとおっていた席に、ぬれたようにぼんやり白く見えるだけでした。きっとほんとうの幸福をさがすぞジョバンニは唇を噛んで、その顔いろも少し青ざめて見えました。またそのうしろには三本の脚のついた岩が、まるで運動場のようにゆっくり走っていました。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ持って来た鷺を、きちんとそろえて、少し伸びあがるようにしているのでした。僕はほんとうにカムパネルラといつまでもいっしょにうたいだしたのです。
それはひる学校で見たように席にもたれて睡っていたのです。ぼくはそのひとによってちがった、わずかのいいかおりになってはねあげられたねえ。私は大学へはいっていました。見えない天の川の水のなかから四方を見ると、車室の天井を、あちこち見ていました。
4. 高い高い崖の上
僕はほんとうに高い高い崖の上を通るようになりながら腰掛にしっかりしがみついていました。いや、商売ものをもらっちゃすみませんなその人はもう行ってしまいました。すると耳に手を入れてみましたら、鳥捕りは、何かまっくらなものが鳴りました。この傾斜があるもんですからなんでもかまわない、やっちまえと思ってまたよく気をつけて見ると、そのとき出ているよ。


