第2話 覗かれた浴室|仕掛けられた視線
■午前の“下見”という名の観察
「桝田さん、今日もお願いしまーす」
そう声をかけてくれたのは、例の新卒OL、亜弥ちゃんの母親だった。
若いとはいえ、娘とは年の離れた上品な主婦。小綺麗な格好で、今日も一人で留守番しているらしい。
だが、俺の興味はそちらじゃない。
今日は浴室の壁裏に通す配線確認。
2階の洗面所奥にあるユニットバスへと向かう。
工具箱を下ろしながら、俺はすでに“準備”をしていた。
(さて……亜弥ちゃんの生活の痕跡、今日はどれだけ残ってるかな)
■洗面所の濡れた痕跡、亜弥の生活の気配
まず目に飛び込んできたのは、白いタオルとピンクのブラ。
洗濯機の上にぽん、と置かれたそれは、どう見ても“使い終わった”直後のものだ。
洗面台の鏡には、まだ曇りが残っている。
バスマットも湿っていて、昨晩のシャワーが遅い時間だったことを物語っていた。
俺はわざとゆっくりと手を伸ばし、タオルを持ち上げた。
(……この柔らかさ……湿り具合……下着のこの折れ目……)
手には取らない。だが、目でなぞる。鼻で空気を吸う。
そこに、彼女の肌の温もりの“名残”があった。
■桝田の新たな“仕掛け”計画
浴室の天井裏。
点検口に手をかけ、配線の奥にカメラではなく、小型の鏡と薄いLEDライトを“仮置き”した。
何か不具合があったと言われれば、すぐに回収できる程度の微細な仕掛け。
(視線は罪じゃない……想像に任せるのが、大人の遊びだろう)
俺は照明の当たり具合を何度も調整しては、想像した。
あの浴室で、彼女がタオル一枚で立ち上がる姿を。
体を拭きながら、ふと胸の谷間が見える瞬間を。
濡れた足がバスマットに沈み、うっすらと下腹部に残る水滴が伝うその姿を――
■帰宅した亜弥が気づかぬうちに始まる焦らし
「ただいま戻りました……あ、桝田さん、今日は2階でしたか?」
玄関のドアが開き、亜弥の声が響いた。
(来た……この瞬間を待っていた)
俺はわざとらしく音を立てて、工具箱をガチャガチャ言わせながら返した。
「あぁ、ちょっと浴室周りに問題があってね。水圧の関係かもしれないから確認だけ」
「そ、そうなんですね……」
亜弥はやや緊張した表情でうなずき、上着を脱いで洗面所へ。
(さあ、どう動く……亜弥ちゃん……)
わざと少し扉を開けておいた点検口の陰から、その動きを――そっと覗く。
■少しずつ変化していく彼女の表情、動き、呼吸
制服のスカートをゆっくりたくし上げ、洗顔前の準備を始める。
(……ノーパンか? いや、ベージュ……)
座ったときにふとももの付け根まで見えた下着。
亜弥は全く気づかない。
彼女の目は鏡に釘付け。小さな吹き出物を気にしてか、何度も頬を指先で撫でていた。
そのとき――
「ん……?」
わずかに背中が震える。
風もないのに、微かな気配に、反応してしまったようだった。
(そうだよ、亜弥ちゃん……お前のその背中を見てる男が、すぐ上にいるんだよ)
■亜弥の変化、それは些細な“ずれ”から
洗面所での彼女は、やや落ち着きがなかった。
手を洗う回数が妙に多い。石鹸を泡立てる時間が長い。
タオルで顔を拭く仕草も、どこか落ち着きがない。
その視線の先――鏡の右奥には、俺の仕掛けた“ライトの反射”が微かに映っている。
(気づいたか……いや、感覚か)
女の勘は鋭い。だが、証拠がなければ何もできない。
「見られてるかもしれない」……それだけの違和感が、彼女の神経をじわじわと震わせていく。
そして、身体もまた、それに呼応するかのように変化していた。
■太ももを閉じる動きが、かえって艶めかしい
「あ、やっぱりスカート、ちょっと短かったかな……」
ひとりごとのようにそうつぶやいて、裾を引っ張る亜弥。
しかし、逆にそれが布を持ち上げ、腰のくびれが強調されてしまう。
座るたびに、太ももがすっと揃えられる。
(なにをそんなに気にしてるんだ? なぁ亜弥ちゃん?)
その“仕草”が、なによりそそる。
不安を抱えているときの女の動きほど、淫靡なものはない。
■桝田、さらなる一手を加える
夕方、工事の終わり際。
俺は再び2階へ上がり、点検口の中を片づける“ふり”をした。
そして、洗面所の棚に、小型の芳香剤型カメラをそっと設置。
(次はここから覗いてやるよ……お前の震える吐息も、指先の震えも、全部)
さらに浴室裏の壁に、小さな通気穴を追加しておく。
位置は、ちょうど亜弥の背後になるであろう、高さ――腰からお尻にかけて。
彼女がバスタオル一枚で立てば、背中も、腰の窪みも、バストの側面も――
ぜんぶ、そこから“透けて見える”。
■一人の夜、想像の中で“濡れていく”女
夜、モニターの前で桝田はひとり、その映像を待った。
21時過ぎ。亜弥が入浴前に、部屋着のまま洗面所に立つ姿が、映る。
(来たな……今日は上下ジャージか?)
だが、ジャージの裾から覗く足首、うなじの汗――その全てが艶やかだった。
そして、バスタオルに着替えて戻ってくる。
ふわりとしたタオルが、彼女の身体にぴたりと張り付き、うっすらと乳首の輪郭が浮かんでいる。
(……これが、女か)
俺は、静かに息を詰める。声は出さない。だが、目の奥で舌が蠢いているようだった。
■羞恥と快感が交差する瞬間
そしてそのとき――
洗面所で彼女がふと振り返る。
「……誰も、いないよね?」
声に出したその疑問は、自身に向けての確認。
だがそれと同時に、彼女の手がゆっくりと、タオルの胸元を押さえる。
(……感じてるのか? まさか……この状況に?)
視線の奥、カメラ越しに見えるその吐息は、確実に熱を帯びていた。
彼女は、確実に“反応していた”。
まだ誰にも触れられていない。
だが、視線の熱が、すでに彼女の奥へ届いている。
■ラスト:視線の罪と、女の濡れた証
その夜、亜弥が部屋へ戻る最後の瞬間――
彼女はそっと、洗面所の鏡を見つめながら、こうつぶやいた。
「……なんで、こんなに……ドキドキしてるの……?」
その吐息は、明らかに震えていた。
胸元を押さえる仕草、太ももの内側をそっと撫でる指先。
(――俺の仕掛けた視線が、確実に届いてる)
俺は画面越しに、じっと見つめたまま、目を離すことができなかった。
1. 白鳥の停車場
わたしはずうっとぐあいがいいよジョバンニは言いました。するとそれは、チョコレートででもこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。いま誰もいたようではありませんからな。もうじき白鳥の停車場だよカムパネルラはこおどりしました。この男は、どこかで待っていようかと言いますと、いままでばけもののように、ほんとうにいいことをしたカムパネルラのお父さんも来た。
カムパネルラがきのどくそうにしましたが、あなたはジョバンニさんでしたね。そしてたくさんのシグナルや電燈の灯のなかを汽車はだんだんしずかになってうなずきました。
ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思われませんでした。あたしきっとあの森の中から立ってかがやき、その上に一人の寛い服を着て、星めぐりの口笛を吹きました。

2. 三番目の高い卓子
またすぐ眼の下のとこをこすりながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ているときなどは思わず叫びました。草の中につかれているのを見ましたけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子にすわったばかりの青年に言いました。
にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ行っておじぎをしました。

ああ、りんどうの花が、そこらには、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、その黒いけむりは高く桔梗いろのがらんとしたんだカムパネルラは、なぜかそう言いながら博士はまた、川下の銀河の説なのですからしかたありませんや。ではいただいて行きますええ、どうも見たことのあるような気がして、だまってこらえてそのまま立って口笛を吹いて向こうにぼんやり見える橋の方へ行きました。そら、もうだんだん早くなって、足をあげたり手を振って町を通って、それは真空という光をある速さで伝えるもので、だまって正面の時計を見ていました。
3. ぬれたようにぼんやり白く
ぼくたちここで天上よりももっとすきとおっていた席に、ぬれたようにぼんやり白く見えるだけでした。きっとほんとうの幸福をさがすぞジョバンニは唇を噛んで、その顔いろも少し青ざめて見えました。またそのうしろには三本の脚のついた岩が、まるで運動場のようにゆっくり走っていました。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ持って来た鷺を、きちんとそろえて、少し伸びあがるようにしているのでした。僕はほんとうにカムパネルラといつまでもいっしょにうたいだしたのです。
それはひる学校で見たように席にもたれて睡っていたのです。ぼくはそのひとによってちがった、わずかのいいかおりになってはねあげられたねえ。私は大学へはいっていました。見えない天の川の水のなかから四方を見ると、車室の天井を、あちこち見ていました。
4. 高い高い崖の上
僕はほんとうに高い高い崖の上を通るようになりながら腰掛にしっかりしがみついていました。いや、商売ものをもらっちゃすみませんなその人はもう行ってしまいました。すると耳に手を入れてみましたら、鳥捕りは、何かまっくらなものが鳴りました。この傾斜があるもんですからなんでもかまわない、やっちまえと思ってまたよく気をつけて見ると、そのとき出ているよ。


