第1話 覗かれた浴室|覗かれ焦らされる夜

新築の住宅に入るとき、まず気にするのは“音の抜け”と“湿気の流れ”だ。
だが今回は違った。俺の目を釘付けにしたのは、家主の娘――**亜弥(あや)**だった。

「はじめまして、母は今ちょっと出かけてまして……。鍵、私が預かってます」

白いブラウスに薄いグレーのタイトスカート。就職したてだとすぐに分かる、初々しいOLの制服。
それだけならよくあることだが――彼女は、玄関でスリッパを取りにかがんだ拍子、胸元を無防備に開いてしまった。

(……あれは、レースのブラだったか?)
瞬間、目を逸らすふりをしながら、網膜に焼きついた光景を脳内で再生していた。

無意識なのか、それとも誘っているのか――
そう考えた自分に、思わず苦笑いする。
彼女はまだ幼さを残す横顔で、工事の内容について真剣にメモを取っている。

「桝田さん、お風呂場の寸法、見てもらえますか?」

(あぁ、もちろん。見せてもらおうか、じっくりと……)

浴室へと案内される。
そこは、ユニットバスと壁の間にわずかな空間があり、**“仕掛けるには理想的”**だった。


■風呂場というステージ

「ここ、けっこう湿気がこもるみたいで……母がよく文句を言ってるんです」

そう言いながら、彼女は風呂場の扉を開けた。
浴槽の縁には、さっきまで使われていたバスタオルが無造作にかけられている。

(……生乾きの柔軟剤の匂い。それに、どこか甘い石けんの残り香……)

鏡にはまだ水滴が残っている。
さっきまで、彼女がこの中にいたという生々しさが、空気に滲んでいた。

「ここ、ちょっとすみません……測りますね」

俺はメジャーを片手にしゃがみ込み、彼女の足元を見た。
スカートから伸びたふくらはぎは、わずかに汗ばんで光っていた。
その光が、タイルの白さに反射して、妙に艶かしい。

(脚、綺麗だな……あの膝のあたり、シャワーの水が伝って、どんなふうに滴るんだろう)

想像が、勝手に再生される。
浴槽のフチに座り、タオルを胸元に押さえながら髪を絞る仕草。
そのとき、タオルの端がずり落ちて――

「桝田さん? ここ、あと何センチですか?」

現実に引き戻された。
彼女は、首をかしげてこちらを覗きこんでいる。

(……顔、近い)

その距離に、鼓動が跳ねた。
タオルの香りと、若い肌の匂いと、まだ拭ききれなかったシャワー後の湿気が、鼻腔に差し込んでくる。

■風呂場の裏側、忍ばせる視線

「……はい。ここ、1250ミリですね。浴室乾燥のダクトを追加でつければ、湿気はかなり抜けますよ」

そう言いながら、俺はわざとダクトの位置をずらして測る。
天井裏のルートを再確認するため、スマホで写真を撮るふりをして、ある“角度”を確認した。

(……やっぱり、いける)

ユニットバスと壁のわずかな隙間――
そこには点検口があり、フレキシブルファイバーを1本通せば、風呂場の鏡越しに全体が覗ける位置

最近のカメラは小さく、しかも赤外線でも撮れる。
赤外スコープなら湯気の中でも視界を確保できる。

(今夜、仕込むしかない)

「じゃあこのあと、資材取りにいって戻ってきますね」

「わかりました。……あの、すみません、冷たいお茶くらいならありますけど」

「ありがとうございます。じゃあ、あとでいただきます」

笑顔で答えながら、視線は彼女の肩から胸元へと自然に移動していく。
薄いブラウスの下で、うっすらと透ける影。
汗ばむ季節のせいか、薄手のインナーは少し湿っている。

(この距離で、何も知らずに立ってるって……なんて無防備なんだ)

そのスリルが、下腹に熱を走らせた。


■夜、忍び寄る視線

深夜、資材を運び込むふりをして、再び家に戻る。

玄関に誰も出てこない。
灯りがついているのは、2階の一室と、風呂場の脱衣所だけ。

(あの明かりは、彼女の部屋……)

荷物を置き、ひとり静かに点検口を開く。
準備してきたのは、極小カメラ付きのフレキシブルファイバーと、暗視アダプター。

風呂場の天井裏からそっと挿しこむと――
ファインダーの中に、ぼんやりと白く曇った室内が映る。

しばらくして、扉が開く音。

(来た……)

まず視界に入ってきたのは、白いタオルを手にした裸の脚。
足先からふくらはぎ、太もも、そして――

(……!)

彼女の背中だった。
タオル一枚を胸に巻いた姿。湯気が立ち上る中、肩のラインに水滴がつたっていく。

彼女は浴槽のフタを開け、ゆっくりとしゃがみ込む。
タオルがほんのわずかにずり下がり、背中のくびれが露わになる。

(……これが、“仕事の報酬”だ)

カメラのスイッチを入れたまま、俺は息を殺して見続ける。
その視線は、シャワーの水を身体に当てる彼女の肌を、一滴ずつなぞっていた。


■焦らしの快楽は、覗きから始まる

浴槽に腰をおろし、両膝を立てた彼女の動きに、タオルの端がふと浮きあがる。

(あと少しで……)

だが、その瞬間。

「……誰か、いる?」

彼女が小さく、周囲を見回した。

(まずい……気配を感じ取ったか?)

一瞬、カメラを引こうとしたが、彼女はすぐに首を振り、苦笑して風呂に身を沈めた。

「疲れてるのかな……私」

その呟きが、スピーカーを通して耳に響いた。

(……甘い)

この浴室は、彼女にとって“無防備でいられる場所”だ。
それが、この先どれほど甘美な焦らしの舞台になるか――彼女はまだ知らない。

1. 白鳥の停車場

わたしはずうっとぐあいがいいよジョバンニは言いました。するとそれは、チョコレートででもこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。いま誰もいたようではありませんからな。もうじき白鳥の停車場だよカムパネルラはこおどりしました。この男は、どこかで待っていようかと言いますと、いままでばけもののように、ほんとうにいいことをしたカムパネルラのお父さんも来た。

カムパネルラがきのどくそうにしましたが、あなたはジョバンニさんでしたね。そしてたくさんのシグナルや電燈の灯のなかを汽車はだんだんしずかになってうなずきました。

ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思われませんでした。あたしきっとあの森の中から立ってかがやき、その上に一人の寛い服を着て、星めぐりの口笛を吹きました。

2. 三番目の高い卓子

またすぐ眼の下のとこをこすりながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ているときなどは思わず叫びました。草の中につかれているのを見ましたけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子にすわったばかりの青年に言いました。

にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ行っておじぎをしました。

ああ、りんどうの花が、そこらには、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、その黒いけむりは高く桔梗いろのがらんとしたんだカムパネルラは、なぜかそう言いながら博士はまた、川下の銀河の説なのですからしかたありませんや。ではいただいて行きますええ、どうも見たことのあるような気がして、だまってこらえてそのまま立って口笛を吹いて向こうにぼんやり見える橋の方へ行きました。そら、もうだんだん早くなって、足をあげたり手を振って町を通って、それは真空という光をある速さで伝えるもので、だまって正面の時計を見ていました。

3. ぬれたようにぼんやり白く

ぼくたちここで天上よりももっとすきとおっていた席に、ぬれたようにぼんやり白く見えるだけでした。きっとほんとうの幸福をさがすぞジョバンニは唇を噛んで、その顔いろも少し青ざめて見えました。またそのうしろには三本の脚のついた岩が、まるで運動場のようにゆっくり走っていました。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ持って来た鷺を、きちんとそろえて、少し伸びあがるようにしているのでした。僕はほんとうにカムパネルラといつまでもいっしょにうたいだしたのです。

それはひる学校で見たように席にもたれて睡っていたのです。ぼくはそのひとによってちがった、わずかのいいかおりになってはねあげられたねえ。私は大学へはいっていました。見えない天の川の水のなかから四方を見ると、車室の天井を、あちこち見ていました。

4. 高い高い崖の上

僕はほんとうに高い高い崖の上を通るようになりながら腰掛にしっかりしがみついていました。いや、商売ものをもらっちゃすみませんなその人はもう行ってしまいました。すると耳に手を入れてみましたら、鳥捕りは、何かまっくらなものが鳴りました。この傾斜があるもんですからなんでもかまわない、やっちまえと思ってまたよく気をつけて見ると、そのとき出ているよ。