第5話 覗かれた浴室|見られている私、気づいてしまった私
■1. 視線に気づく女
「あの……ここ、いつも……風、通りにくくないですか?」
いつものように換気点検を装い、浴室に入ったとき、亜弥がふとつぶやいた。
彼女の視線は、俺が設置した“通気口”――正確には“覗き口”に向けられていた。
(……バレたか?)
一瞬、心臓が跳ねた。だが――
「ちょっと、視線感じるような……気のせいですよね……」
と小さく笑って、すぐに話題を変えた。
それは確信のある疑いではなく、“気づいてはいけない”ことに対する、自分へのごまかしのようだった。
そしてその夜。
俺は裏の窓から、うっすらと灯りの漏れる浴室を覗いていた。
(……どうする? いつも通りか?)
いや、違った。
亜弥は、わざとカーテンを開けたままタオルを床に落とし、鏡の前で髪をまとめていた。
しかも、バスタオルの下は――何も、つけていない。
(見せてる……のか? それとも……)
彼女の指先が、自分の胸の上をゆっくりなぞった。
鏡越しに、自分の動きをじっと見つめながら。
その姿は、もはや「見られているかもしれない」という想像を、
自ら快感に変換している女の姿だった。
■2. 自分の反応に濡れていく
翌朝。
出勤準備中の亜弥を“偶然”見かけた。
「……おはようございます、桝田さん」
言葉は普通だったが、彼女の頬はわずかに赤く、目はどこか潤んでいた。
俺は何も言わず、ただ「点検に入りますね」とだけ告げた。
――そしてその夜。
浴室の明かりがつくのを待って、俺はもう一度覗き口へと這い寄った。
(……今日はどう出る?)
カーテンの向こう、タオルの落ちる音が聞こえた。
そして次の瞬間、目の前に現れたのは――しゃがみこんだ彼女の背中だった。
亜弥は、鏡の前でローションのような何かを手に取り、
太もも、腰、そして股間にゆっくりと塗り広げていた。
その手つきが妙に慎重で、指先がときおり止まっては、小さく震える。
(見られてるって思ってやってる……それに、気づいてる自分が……恥ずかしくて濡れてる)
そんな風にしか見えなかった。
「……んっ……やだ……なんで、こんな、濡れて……」
かすかな声が聞こえた気がした。
きっと、彼女自身にも理解できないのだ。
どうして“誰かに見られている”という妄想だけで、
身体が火照ってしまうのか。
だが、それこそが俺の狙いだ。
■3. “自分から”開いてしまう脚
それから数日後。
俺はわざと、工事中の脚立を浴室の外に設置したままにしていた。
亜弥がまた、無防備にタオル姿で通るかもしれない。
そんな期待と興奮を抱きながら、影に隠れて待機していた。
案の定、その日も彼女は風呂上がりにふらりと現れた。
ただ、何かが違った。
(……あれ、脚……?)
亜弥の脚が、明らかに“見せるように”立っていた。
タオルの合わせ目が、微妙にずれている。
一歩踏み出すたび、太ももの付け根がちらりと覗く。
俺は飲み込んだ唾をゆっくりと嚥下した。
そして彼女は――バスタオルを床に落とした。
完全に背中をこちらに向けて、両脚をわずかに開いたまま、
鏡に向かって、髪をまとめ直していた。
(……見てるってわかってやってる。でも、それが恥ずかしくてたまらない)
俺はもう、息を殺すことすら忘れていた。
彼女の肩が、ぴくりと震えた。
もしかして――俺の存在に、気づいたのか?
それでも、彼女は何も言わず、何も閉じず、ただ鏡の前に立ち続けていた。
■4. 最後の一線、まだ越えぬ焦らし
覗かれる女。
恥ずかしいのに、やめられない。
やめられないから、ますます濡れてしまう。
俺は今、その真ん中に立っていた。
それでも俺は、まだ触れない。
まだ声もかけない。
“視線だけ”で、彼女を落としていく――
この焦らしの果てに、彼女がどんな風に“開く”のかを、俺は見ていたい。
(もっとだ、亜弥。もっと恥ずかしくなれ。自分で、自分を感じてしまえ)
そう思いながら、またその夜も、浴室の灯りを見つめていた。
1. 白鳥の停車場
わたしはずうっとぐあいがいいよジョバンニは言いました。するとそれは、チョコレートででもこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。いま誰もいたようではありませんからな。もうじき白鳥の停車場だよカムパネルラはこおどりしました。この男は、どこかで待っていようかと言いますと、いままでばけもののように、ほんとうにいいことをしたカムパネルラのお父さんも来た。
カムパネルラがきのどくそうにしましたが、あなたはジョバンニさんでしたね。そしてたくさんのシグナルや電燈の灯のなかを汽車はだんだんしずかになってうなずきました。
ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思われませんでした。あたしきっとあの森の中から立ってかがやき、その上に一人の寛い服を着て、星めぐりの口笛を吹きました。

2. 三番目の高い卓子
またすぐ眼の下のとこをこすりながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ているときなどは思わず叫びました。草の中につかれているのを見ましたけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子にすわったばかりの青年に言いました。
にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ行っておじぎをしました。

ああ、りんどうの花が、そこらには、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、その黒いけむりは高く桔梗いろのがらんとしたんだカムパネルラは、なぜかそう言いながら博士はまた、川下の銀河の説なのですからしかたありませんや。ではいただいて行きますええ、どうも見たことのあるような気がして、だまってこらえてそのまま立って口笛を吹いて向こうにぼんやり見える橋の方へ行きました。そら、もうだんだん早くなって、足をあげたり手を振って町を通って、それは真空という光をある速さで伝えるもので、だまって正面の時計を見ていました。
3. ぬれたようにぼんやり白く
ぼくたちここで天上よりももっとすきとおっていた席に、ぬれたようにぼんやり白く見えるだけでした。きっとほんとうの幸福をさがすぞジョバンニは唇を噛んで、その顔いろも少し青ざめて見えました。またそのうしろには三本の脚のついた岩が、まるで運動場のようにゆっくり走っていました。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ持って来た鷺を、きちんとそろえて、少し伸びあがるようにしているのでした。僕はほんとうにカムパネルラといつまでもいっしょにうたいだしたのです。
それはひる学校で見たように席にもたれて睡っていたのです。ぼくはそのひとによってちがった、わずかのいいかおりになってはねあげられたねえ。私は大学へはいっていました。見えない天の川の水のなかから四方を見ると、車室の天井を、あちこち見ていました。
4. 高い高い崖の上
僕はほんとうに高い高い崖の上を通るようになりながら腰掛にしっかりしがみついていました。いや、商売ものをもらっちゃすみませんなその人はもう行ってしまいました。すると耳に手を入れてみましたら、鳥捕りは、何かまっくらなものが鳴りました。この傾斜があるもんですからなんでもかまわない、やっちまえと思ってまたよく気をつけて見ると、そのとき出ているよ。


