第1話 エロおやじの手ほどき|「はじまりのログイン」
――ライブチャット、その最初の夜に。
「……これ、本当に、映ってるんですか?」
震えるような声とともに、画面の向こうで彼女が瞬きをした。部屋の明かりは落とされ、モニターの光だけが、彼女の横顔を浮かび上がらせている。
淡いラベンダー色のルームウェアに、緊張の滲む唇。そして、まっすぐな瞳の奥にあるのは、戸惑いとわずかな興味。
彼女の名前は――瑠菜(るな)。
大学1年生。春に上京し、ようやく慣れてきた東京の生活の中で、ひとり心細さを埋めるようにネットを彷徨っていた。そして出会ったのが、「ライブチャットモデル募集」の文字だった。
「大丈夫だよ、瑠菜ちゃん。ちゃんと映ってるし、声もクリアに届いてるよ」
マイク越しに優しく語りかけるのは、八田。
40代半ばの彼は、映像業界で長く仕事をしてきたが、今夜は別の顔――“見る者”として、彼女の最初の一歩を支えていた。
「じゃあ……自己紹介、してくれる?」
「……えっと、瑠菜です。はじめてで……なんにも分からないけど……よろしくお願いします」
小さな声で、けれど真剣に言葉を紡ぐ彼女。緊張で指先が袖をもぞもぞといじっている仕草さえ、八田にはたまらなく初々しく見えた。
「緊張するよね。でも、ここでは“頑張る”必要はないんだよ。大切なのは……“感じる”こと」
「……感じる、ですか?」
八田は微笑む。
「まずは、自分の身体を、少しだけ意識してみようか。右手で、胸の上……そっと触れてみて」
「……え?」
戸惑いと羞恥が、はっきりと彼女の瞳に浮かんだ。
「無理しなくていい。でもね、自分で触れてみると、“知らなかった自分”が見つかるかもしれないよ」
画面越しに見つめられながら、瑠菜はおそるおそる、右手を自分の胸元へと滑らせた。
ルームウェア越しに感じる温度、形、やわらかさ――それは、普段まったく意識してこなかった自分自身の感触だった。
「……ん……」
「どう? ちょっとだけ、気持ちよくない?」
「……ちょっと……へんな感じがして……」
「うん、それが“入口”だよ。変な感じって、実は大事なんだ」
八田の声は静かに、でも確実に彼女の内側に染み込んでいく。
「次は……少しだけ、ルームウェアの上から、乳首のあたり、撫でてみようか」
「えっ、そ、そんなの……見てるんですよね?」
「もちろん、見てるよ。瑠菜ちゃんがどう感じてるのか、ちゃんと見届けるから」
恥ずかしさに頬を染めながら、それでも彼女の指は、言われた通りに動いていった。
指先が、じわ……っと乳首のあたりに触れると、思わず目を伏せ、口元から小さく息が漏れる。
「……あっ……」
「いいよ、そのまま……もっと、自分の反応を、よく感じてみて」
身体の奥で、なにかがじんわりと目覚めていく感覚。
恥ずかしいのに、なぜか止めたくない。そんな不思議な衝動が、彼女の中でゆっくりと育ち始めていた。
八田は、その変化を見逃さなかった。
(この子は……“開発”できる)
羞恥と快感、その狭間で揺れている今の状態こそが、もっとも美しい導入だった。
焦らず、でも確実に導いていけば、やがて彼女は――
「瑠菜ちゃん、今日はね、“ログイン”だけでもう十分。だけど……もうちょっとだけ、自分の中を知ってみようか」
その一言に、瑠菜はこくりと小さく頷いた。
この夜、彼女の“知らなかった自分”が、密やかに目を覚まし始めた。
1. 白鳥の停車場
わたしはずうっとぐあいがいいよジョバンニは言いました。するとそれは、チョコレートででもこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。いま誰もいたようではありませんからな。もうじき白鳥の停車場だよカムパネルラはこおどりしました。この男は、どこかで待っていようかと言いますと、いままでばけもののように、ほんとうにいいことをしたカムパネルラのお父さんも来た。
カムパネルラがきのどくそうにしましたが、あなたはジョバンニさんでしたね。そしてたくさんのシグナルや電燈の灯のなかを汽車はだんだんしずかになってうなずきました。
ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思われませんでした。あたしきっとあの森の中から立ってかがやき、その上に一人の寛い服を着て、星めぐりの口笛を吹きました。

2. 三番目の高い卓子
またすぐ眼の下のとこをこすりながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ているときなどは思わず叫びました。草の中につかれているのを見ましたけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子にすわったばかりの青年に言いました。
にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ行っておじぎをしました。

ああ、りんどうの花が、そこらには、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、その黒いけむりは高く桔梗いろのがらんとしたんだカムパネルラは、なぜかそう言いながら博士はまた、川下の銀河の説なのですからしかたありませんや。ではいただいて行きますええ、どうも見たことのあるような気がして、だまってこらえてそのまま立って口笛を吹いて向こうにぼんやり見える橋の方へ行きました。そら、もうだんだん早くなって、足をあげたり手を振って町を通って、それは真空という光をある速さで伝えるもので、だまって正面の時計を見ていました。
3. ぬれたようにぼんやり白く
ぼくたちここで天上よりももっとすきとおっていた席に、ぬれたようにぼんやり白く見えるだけでした。きっとほんとうの幸福をさがすぞジョバンニは唇を噛んで、その顔いろも少し青ざめて見えました。またそのうしろには三本の脚のついた岩が、まるで運動場のようにゆっくり走っていました。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ持って来た鷺を、きちんとそろえて、少し伸びあがるようにしているのでした。僕はほんとうにカムパネルラといつまでもいっしょにうたいだしたのです。
それはひる学校で見たように席にもたれて睡っていたのです。ぼくはそのひとによってちがった、わずかのいいかおりになってはねあげられたねえ。私は大学へはいっていました。見えない天の川の水のなかから四方を見ると、車室の天井を、あちこち見ていました。
4. 高い高い崖の上
僕はほんとうに高い高い崖の上を通るようになりながら腰掛にしっかりしがみついていました。いや、商売ものをもらっちゃすみませんなその人はもう行ってしまいました。すると耳に手を入れてみましたら、鳥捕りは、何かまっくらなものが鳴りました。この傾斜があるもんですからなんでもかまわない、やっちまえと思ってまたよく気をつけて見ると、そのとき出ているよ。


