ライブチャット-『あなたの声で、電車の中に堕ちていく』
『あなたの声で、電車の中に堕ちていく』
■ライブチャットに彼が現れたとき
ライブチャットの画面に彼が現れたとき、 すでにわたしの身体は、彼の言葉を待ちわびていた。
ゆっくりとヘッドセットを整える、その仕草ひとつ。 それだけで、わたしの呼吸が深くなるのが自分でもわかる。
「……今夜は、ちょっとだけ想像で遊ばない?」
その低く湿った声が、耳の奥で甘く波打った。 まるで、誰にも触れられたことのない奥へ、 言葉という蜜がひとしずくずつ垂れてくるようだった。
■想像のスイッチ ― 満員電車のあの朝
「さっき君が乗ってた電車……ぎゅうぎゅう詰めの朝のラッシュ。 その中で、君が動けないまま押し込められてるところを、想像してみて」
その一言だけで、わたしの脳裏に、あの朝の光景がゆっくりと滲み始める。
吊り革につかまり、もう片方の手はカバン。逃げ場のない空間。 背後から押し当てられる誰かの胸板。前には、腕が……。
「その腕がね、電車の揺れに合わせて、 君の胸元をかすかにかすめるんだ。 わざとじゃないふりをして、何度も、ゆっくりと」
画面越しの彼の声が、そのシーンを鮮やかに描き出すたび、 わたしの胸の奥が、ずくんと疼く。
■言葉だけで、身体の奥が熱くなる
「シャツのボタンのすぐ下……やわらかい膨らみに、 圧がかかる。布越しに、摩擦が、じわじわと熱に変わっていく」
わたしは椅子に座っているのに、 意識はもう電車の中にいた。
「ねえ、感じてるでしょ? 想像してるだけなのに。 胸の奥が、くすぐったくて、痺れるように疼いてる。 声には出さないけど……ばれちゃうんじゃないかって、ドキドキしてる」
彼の囁きが、喉元から鎖骨、胸の谷間、下腹部へと這い降りてくるようで。 それだけで、わたしの身体はじっとりと熱を帯びていく。
■くすぐる声、濡れていく想像
「太ももも……誰かのカバンが当たって、スカートが少しだけめくれて。 ストッキング越しに押し当てられる感触。 ……それが、妄想の中の“誰か”だったら?」
腰が、じわっと浮く。 想像の中で押しつけられた刺激に、体が反応してしまっていた。
「ほら、自分で気づいてるでしょ? 誰にも触られてないのに……もう、じんわり濡れてるって」
彼の声が、耳の奥から奥へと染み込んでいく。 体の中心に向かって、言葉の指が、ゆっくりと這い降りてくる。
■「どこに触れてほしい?」
『あなたの声で、電車の中に堕ちていく』――続・ライブチャットの夜
「……ねぇ、今、どこに触れてほしい?」
わたしは画面の前で、息を詰める。 返事ができないほど、すでに感覚が昂ぶっていた。
「言わなくてもわかるよ。顔、すごく可愛い……我慢してる顔、たまらない」
その声が、胸元に落ち、肩を撫で、太ももへとゆっくり落ちていく。
「もし今、君の太ももにぼくの指があるとしたら……どうする? ストッキングの上から、ゆっくり、じわじわと撫でるよ。 でもそれは、触れてないんだ。ぜんぶ、想像。君の中の妄想」
「でも……本当に感じてるよね? 今、このチャットの中で、 君の身体が、ぼくの言葉に反応してる」
指先が本当にそこにあるような錯覚。 ぞくぞくと、肌が粟立つ。
■触れずに濡れる、言葉の愛撫
「胸も……ね。誰にも見られてないのに、 ちょっと押しつけられるだけで、ブラの上から尖って……敏感になって。 息を吸うだけで、布に擦れてくすぐったい」
わたしは、無意識に胸をかばうように腕を交差した。 けれど、それすらも、彼の視線の中では甘い仕草になる。
「……ねえ、言葉で、撫でてみようか」
「服の上から、胸のふくらみのカーブを指でなぞる。 円を描くように、ゆっくり、焦らしながら、中央へ…… でも、まだ触れない。触れる直前で止めるの。……それだけで、君は……」
息が漏れた。 言葉だけで、わたしの奥はきゅんと締まり、 もう、耐えるだけで必死だった。
■電車の中、知られたくない疼き
朝の満員電車。 制服姿のわたしは、人波に押されながら 車両の奥に追いやられていた。
肩に当たる誰かの胸板。 太ももに押しつけられる鞄の角。
「……っん……」
動かないで、と願うのに、揺れが次の刺激を連れてくる。
スカートの中、ストッキング越しの肌が擦れるたび、 身体は昨日の“声”を思い出す。
(だめ……また、感じてる……)
昨日、ライブチャットで彼の声に調教された身体。 もう、ただの満員電車じゃなくなっていた。
「……次の駅で降りなきゃ」
そう思うのに、身体が言うことを聞かない。 腰が、また……誰かの手に、触れてしまう。
「っ……や……」
誰にも聞こえないように声を噛み殺す。 けれど、スカートの奥の疼きは止まらない。
(……彼の、声のせい)
わたしは、次の朝も、その次も―― 誰にも知られず、でも確実に、 電車の中で、言葉に焦らされ続ける女になっていた。
1. 白鳥の停車場
わたしはずうっとぐあいがいいよジョバンニは言いました。するとそれは、チョコレートででもこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。いま誰もいたようではありませんからな。もうじき白鳥の停車場だよカムパネルラはこおどりしました。この男は、どこかで待っていようかと言いますと、いままでばけもののように、ほんとうにいいことをしたカムパネルラのお父さんも来た。
カムパネルラがきのどくそうにしましたが、あなたはジョバンニさんでしたね。そしてたくさんのシグナルや電燈の灯のなかを汽車はだんだんしずかになってうなずきました。
ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思われませんでした。あたしきっとあの森の中から立ってかがやき、その上に一人の寛い服を着て、星めぐりの口笛を吹きました。

2. 三番目の高い卓子
またすぐ眼の下のとこをこすりながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ているときなどは思わず叫びました。草の中につかれているのを見ましたけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子にすわったばかりの青年に言いました。
にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ行っておじぎをしました。

ああ、りんどうの花が、そこらには、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、その黒いけむりは高く桔梗いろのがらんとしたんだカムパネルラは、なぜかそう言いながら博士はまた、川下の銀河の説なのですからしかたありませんや。ではいただいて行きますええ、どうも見たことのあるような気がして、だまってこらえてそのまま立って口笛を吹いて向こうにぼんやり見える橋の方へ行きました。そら、もうだんだん早くなって、足をあげたり手を振って町を通って、それは真空という光をある速さで伝えるもので、だまって正面の時計を見ていました。
3. ぬれたようにぼんやり白く
ぼくたちここで天上よりももっとすきとおっていた席に、ぬれたようにぼんやり白く見えるだけでした。きっとほんとうの幸福をさがすぞジョバンニは唇を噛んで、その顔いろも少し青ざめて見えました。またそのうしろには三本の脚のついた岩が、まるで運動場のようにゆっくり走っていました。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ持って来た鷺を、きちんとそろえて、少し伸びあがるようにしているのでした。僕はほんとうにカムパネルラといつまでもいっしょにうたいだしたのです。
それはひる学校で見たように席にもたれて睡っていたのです。ぼくはそのひとによってちがった、わずかのいいかおりになってはねあげられたねえ。私は大学へはいっていました。見えない天の川の水のなかから四方を見ると、車室の天井を、あちこち見ていました。
4. 高い高い崖の上
僕はほんとうに高い高い崖の上を通るようになりながら腰掛にしっかりしがみついていました。いや、商売ものをもらっちゃすみませんなその人はもう行ってしまいました。すると耳に手を入れてみましたら、鳥捕りは、何かまっくらなものが鳴りました。この傾斜があるもんですからなんでもかまわない、やっちまえと思ってまたよく気をつけて見ると、そのとき出ているよ。



