第1話 覗きチャット|画面越しの“恋人未満”
ライブチャットの画面にメインさんが現れたとき、わたしの表情は自然と柔らいでいた。彼とはもう何度も話していて、彼の声を聞くだけで安心する――そんな関係になっていた。
「今日も来てくれて嬉しい。君の声が聴けるのが、何よりの癒しだよ」
やわらかな笑顔と誠実な眼差し。その奥には、まっすぐで繊細な温かさがあった。
(……メインさんって、ほんとうに優しい)
少し疲れた日でも、彼と話すだけで心がすっと軽くなる。 まるで遠距離の恋人みたいな、けれど恋人ではない、不思議な距離感。
わたしは胸元まで映るカメラの前で、そっと髪を整えながら微笑んだ。
「今日は、ちょっとだけ……疲れてるかも」
「じゃあ、僕が癒すよ」
その言葉に、思わず目が潤みそうになった。 でも――そのときだった。
のぞきさん”からの密やかな着信
メインさんとの通話が始まってすぐ、チャット欄の下に小さなポップアップが現れた。
《のぞきさんがこの配信を見ています》
(……また来てる)
彼――“のぞきさん”は、いつもこの時間に現れる。 メインさんとの会話中、決して声を出さず、ただチャットで、ひそやかに、でも確実にわたしの心と身体を乱してくる。
《今日のシャツ、ちょっと胸元が緩いね。揺れてるの、気づいてる?》
(やだ……そんな、見ないで)
思わず胸元をかばうように腕を動かすと、 メインさんが心配そうに聞いてきた。
「大丈夫? 寒い?」
「う、ううん……ちょっと風が当たっただけ」
わたしの言葉とは裏腹に、胸の内側では、じんわりとした疼きが広がっていく。
チャット欄の“指先”がスカートの中を這う
《今日のスカート、短め? さっき、脚組み替えた時、奥のほう……見えそうだったよ》
(やめて……そんなところまで……)
のぞきさんのメッセージが、わたしの太ももの内側を這うように感じられる。 実際には触れられていないはずなのに、ふとももの付け根が、くすぐったく、じわじわと熱を持ちはじめる。
(わたし……チャットを見ただけで、濡れてる……?)
《想像してみて。今、電車の中。満員の車内で、誰かの手が、スカートの中にそっと滑り込んできて....》
その言葉に、ぞくりと身体が震えた。
「……どうしたの? 声、ちょっと震えてる」
メインさんの優しい問いかけが、逆に胸を締めつける。 (バレちゃいけない、絶対に)
「ごめん……ちょっと、変な夢を思い出しちゃって」
そう言いながら、チャット欄に視線を戻す。
《その夢、ぼくが差し込んでたんだよ。君の奥の奥まで、指をねっとり這わせながら》
《今、メインくんと話してるフリしてさ。胸、触られてるって妄想してみて。下着の上から、やさしく……ゆっくり円を描くように》
その瞬間、乳房の輪郭が意識にのぼる。 ブラ越しに、薄いシャツの布が擦れる感覚が、想像だけで鮮明になっていく。
(……ほんとに、そこを撫でられくすぐられ....)
わたしは思わず姿勢を正し、胸を張ってしまう。 それを見て、メインさんが笑った。
「姿勢がいいね。緊張してる?」
「ううん……なんとなく、ね」
でも、実際は違う。 のぞきさんの指が、チャットの言葉となって、わたしの胸の上をゆっくり、舌のように這っていた。
《もっと感じて。ボタンの隙間から指を入れて、乳首の先だけ、そっと優しく転がし、指の腹じゃなくて、爪の先で……軽く、焦らすように》
(やだ、だめ、そんな細かい描写……)
頭の中で、はっきりと乳首が立ち上がっていく感覚があった。 わたしは震える指先で、チャット欄をそっとスクロールしながら、息を整える。
そしてスカートの中にも
《君のスカート、今すごく薄そうだよね。 その奥で、下着が汗でしっとり張りついてる。 ……脚、閉じたまま少しだけ腰を動かしてみて。どう? 擦れて……濡れ、感じるでしょ?》
わたしは画面の前、ほんの少しだけ腰を前後に揺らした。 椅子の上のわずかな動き。 でも、それだけで下着の奥にある粘膜がこすれて、いやらしい痺れが走る。
(感じちゃってる……のぞきさんの言葉で……)
《膝の間から指を入れて、下着の上から、ゆっくり撫であげる。 クリトリスのすぐ下まで、なぞって……でも、そこには触れない。 ……ね、じれったい?》
わたしは無意識に、太ももをぎゅっと閉じた。 だめ、声を出したら、メインさんにすべてがバレてしまう。 でも、のぞきさんの言葉は、ますます執拗に、ねっとりとわたしを嬲り続ける。
「……ところで、さっきの夢って、どんなだったの?」
メインさんの問いが、わたしの背筋を凍らせる。 一瞬、チャット欄を読む手が止まった。
(……やばい、ばれる?)
「ん……ちょっと恥ずかしいから、内緒」
そう言って笑ってみせると、メインさんは優しく頷いた。
「じゃあ、君が話してくれるまで、気長に待つよ」
そのやさしさが、むしろ罪悪感を募らせる。 でも――チャット欄では、のぞきさんが容赦なく攻めてくる。
《その夢の中では、ぼくが君を電車の端に押し付けて、 胸を優しく揉んで、スカートの中に手を入れて、何度も下着の上から焦らしてたよね?》
その言葉に、身体の奥からぞくりと熱が走った。 制服の下、スカートの内側で――わたしは、今もその続きを感じている。
《イきそう? でも、まだダメだよ。 そのまま、メインくんと普通に話しながら、奥をぬるぬるにして。 声、漏らしたら……バレちゃうからね》
わたしは必死に、チャットの流れを読みながら、呼吸を整えた。 でも、太ももとショーツの間の粘膜が、わずかに脈打っているのを感じる。
(もう……限界なのに……)
「……大丈夫? ちょっと顔、赤い気がする」
「うん、大丈夫。……ちょっと暑いだけ」
わたしはなんとか笑ってごまかした。 でも、チャットには追い打ちの一言が落ちてきた。
《……今夜、夢じゃなくて、ほんとうに電車であったあのときみたいに、 また君を優しくなぞっていいかな》
(……え? 電車……って……まさか)
頭の奥に、ぞくっと冷たい何かが走った。 でも同時に、ショーツの奥で濡れがこぽりと溢れた。
(違う、違う……でも、もしかして……)
のぞきさんは、知っている? あの朝の、密着の中で、わたしが“感じてしまった”ことを――
メインさんとの会話は、最後まで平穏だった。 でも、わたしの内側は、ずっとのぞきさんに支配され続けていた。
画面の向こうで、何も知らずに微笑んでくれる彼に、 こんなわたしを、見せられるわけがない。
けれど――のぞきさんの言葉だけは、わたしの身体の奥に、確かに残っている。
次の朝、電車に乗るとき、きっとわたしは思い出すだろう。 満員の車内で、誰にも気づかれないように、じっと濡れていた、あの感覚を。
(また、誰かに……焦らされたい。 胸の先も、スカートの奥も、もう誰にも触れられてないのに、感じてしまう……)
画面越しの秘密のやりとりが、わたしの現実をじわじわと侵食していく。
そしてわたしは、今夜もまた――
メインさんに微笑みながら、のぞきさんの言葉にびちゃびちゃに濡れてしまっていた。
1. 白鳥の停車場
わたしはずうっとぐあいがいいよジョバンニは言いました。するとそれは、チョコレートででもこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。いま誰もいたようではありませんからな。もうじき白鳥の停車場だよカムパネルラはこおどりしました。この男は、どこかで待っていようかと言いますと、いままでばけもののように、ほんとうにいいことをしたカムパネルラのお父さんも来た。
カムパネルラがきのどくそうにしましたが、あなたはジョバンニさんでしたね。そしてたくさんのシグナルや電燈の灯のなかを汽車はだんだんしずかになってうなずきました。
ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思われませんでした。あたしきっとあの森の中から立ってかがやき、その上に一人の寛い服を着て、星めぐりの口笛を吹きました。

2. 三番目の高い卓子
またすぐ眼の下のとこをこすりながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ているときなどは思わず叫びました。草の中につかれているのを見ましたけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子にすわったばかりの青年に言いました。
にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ行っておじぎをしました。

ああ、りんどうの花が、そこらには、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、その黒いけむりは高く桔梗いろのがらんとしたんだカムパネルラは、なぜかそう言いながら博士はまた、川下の銀河の説なのですからしかたありませんや。ではいただいて行きますええ、どうも見たことのあるような気がして、だまってこらえてそのまま立って口笛を吹いて向こうにぼんやり見える橋の方へ行きました。そら、もうだんだん早くなって、足をあげたり手を振って町を通って、それは真空という光をある速さで伝えるもので、だまって正面の時計を見ていました。
3. ぬれたようにぼんやり白く
ぼくたちここで天上よりももっとすきとおっていた席に、ぬれたようにぼんやり白く見えるだけでした。きっとほんとうの幸福をさがすぞジョバンニは唇を噛んで、その顔いろも少し青ざめて見えました。またそのうしろには三本の脚のついた岩が、まるで運動場のようにゆっくり走っていました。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ持って来た鷺を、きちんとそろえて、少し伸びあがるようにしているのでした。僕はほんとうにカムパネルラといつまでもいっしょにうたいだしたのです。
それはひる学校で見たように席にもたれて睡っていたのです。ぼくはそのひとによってちがった、わずかのいいかおりになってはねあげられたねえ。私は大学へはいっていました。見えない天の川の水のなかから四方を見ると、車室の天井を、あちこち見ていました。
4. 高い高い崖の上
僕はほんとうに高い高い崖の上を通るようになりながら腰掛にしっかりしがみついていました。いや、商売ものをもらっちゃすみませんなその人はもう行ってしまいました。すると耳に手を入れてみましたら、鳥捕りは、何かまっくらなものが鳴りました。この傾斜があるもんですからなんでもかまわない、やっちまえと思ってまたよく気をつけて見ると、そのとき出ているよ。


