第1話 覗かれる快感|「初めてのログイン、窓の向こうに」

──ライブチャット、その静かな夜に。

第一章 ことね、ログインする

新卒で入社した会社の生活にも、まだ慣れきれていない春の終わり。ことねは今日も、くたくたのまま小さなワンルームへ帰ってきた。

白いブラウスの襟をゆるめ、細身のスーツスカートのまま椅子に腰を下ろす。

(今日は、ひとりじゃ……ちょっと寂しいかも)

ふとスマホに浮かんだバナー。

──『安心・初心者OK ライブチャット』

クリックしてしまったのは、ほんの気まぐれ。話すだけなら……と、名前欄に「ことね」と入力した。

照明を落とし、パソコンのカメラをセット。部屋はほの暗く、ベッドの端とカーテンだけがかろうじて映っている。

緊張したまま数分。

ピロン、と通知音が鳴った。

『はやとさんが入室しました』

第二章 優しさの声

「こんばんは、ことねさん。はじめまして」

チャット欄に現れた、整った文体とやわらかな言葉。その瞬間、ことねの肩がふっと緩んだ。

「こ、こんばんは……はじめまして。今日、初めてで……」

『そうでしたか。初めての夜に来てくれて、うれしいです。お仕事帰りですか?』

ことねは小さく頷き、マイクに向かって話す。

「はい。まだ慣れなくて……営業、なんです」

はやとさんは、穏やかで礼儀正しく、年上らしい落ち着きを持っていた。

『すごいですね。社会人1年目は、いちばん大変な時期ですもんね。肩、凝ってませんか?』

「え? あ……はい、結構……」

『よかったら、ちょっと回してみましょうか。ゆっくりと』

言葉に導かれるように、ことねは肩をくるりと回す。

「ん……少し、楽になったかも……」

声が柔らかく漏れた。

『ことねさんの声、とても優しいですね。落ち着きます』

その言葉に、頬がほんのり熱くなる。

第三章 チャラい影、現る

──チリン。

『よこっちが入室しました』

次の瞬間、コメント欄に軽い口調の言葉が流れた。

『お、清楚系のお嬢じゃん?ことねちゃん、スーツとかガチ萌え♡』

「……えっ?」

ことねは驚いて画面を見返す。だが、不思議なことに、はやとさんの反応はまったくない。

(……あれ? このコメント……私にだけ?)

『その膝の上の手、ちょっとモジモジしてるの見えてんだよね〜。太もも、触ってる?』

「い、いえ……!」

反射的に否定するも、スカートの中の空気が妙に熱く感じる。

(なにこの人……でも、はやとさんには見えてない?)

ことねの混乱をよそに、はやとは変わらず優しく語りかける。

『深呼吸してみましょう。胸に手を当てて、ゆっくり吸って、吐いて』

「……はい」

胸に手を当てる。その動作を見て、よこっちがすかさずコメント。

『うわ、手で胸押さえてるの見えた♡ そのまま、乳首に軽く触れてみちゃう?どうせ下着越しでしょ?』

「なっ……無理です……!」

思わず声が漏れた。

「え?ことねさん、大丈夫ですか?」

はやとが心配そうにコメントを送ってくる。

『あ、だ、大丈夫です!ちょっとびっくりしちゃって……』

(やばい……よこっちさんのせいで、私……)

『ことねちゃん、正直反応かわいすぎ♡ スカートの中、ちょっと自分でくすぐってみよう? ほら、太ももトントン……』

そのコメントに、思わず内ももに手が伸びる。

第四章 見られている、感じている

「……あ……」

自分の指先がスカートの奥で太ももをなぞると、ゾクリと震える。

『お、まさか触ってる?いや、エロすぎでしょw』

(こんな……はやとさんは見てないのに……見られてる感覚だけが、強くなる……)

『もうちょい、内側な?ぎりぎり触らないで、くすぐるのがコツ♡』

言われるまま、指先は膝から内ももへと……触れるか触れないかの距離を彷徨う。

「……んっ……」

小さな吐息が漏れる。

はやとが再び声をかける。

『ことねさん、もし疲れてたら、無理せずログアウトしても大丈夫ですよ』

「いえ……大丈夫です……」

(だめ……止まらない……見られてるって思うと……変になりそう)

第五章 交差する視線の中で

『ことねちゃん、下着の上からトントンって指で叩いて。音、拾わせてよ♡』

「っ……」

音までは……と、ためらいながらも、指先がショーツの上を軽く叩く。

(やばい……濡れてる……)

『え、マジ?濡れてきちゃってんじゃん♡ まだ触ってるだけだよ?』

羞恥に耐えきれず、ことねはカメラに背を向けた。

(はやとさんは……このこと知らないのに……)

『なぁなぁ、ことねちゃん、今どんな顔してんの? たぶん、すっごいえっち♡』

ことねの心臓は、張り裂けそうだった。

優しいはやとと、見透かすようなよこっち。

そのどちらの視線も、彼女の中で熱を育てていく。

(どうして……見られてるだけで……こんなに……)

1. 白鳥の停車場

わたしはずうっとぐあいがいいよジョバンニは言いました。するとそれは、チョコレートででもこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。いま誰もいたようではありませんからな。もうじき白鳥の停車場だよカムパネルラはこおどりしました。この男は、どこかで待っていようかと言いますと、いままでばけもののように、ほんとうにいいことをしたカムパネルラのお父さんも来た。

カムパネルラがきのどくそうにしましたが、あなたはジョバンニさんでしたね。そしてたくさんのシグナルや電燈の灯のなかを汽車はだんだんしずかになってうなずきました。

ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思われませんでした。あたしきっとあの森の中から立ってかがやき、その上に一人の寛い服を着て、星めぐりの口笛を吹きました。

2. 三番目の高い卓子

またすぐ眼の下のとこをこすりながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ているときなどは思わず叫びました。草の中につかれているのを見ましたけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子にすわったばかりの青年に言いました。

にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ行っておじぎをしました。

ああ、りんどうの花が、そこらには、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、その黒いけむりは高く桔梗いろのがらんとしたんだカムパネルラは、なぜかそう言いながら博士はまた、川下の銀河の説なのですからしかたありませんや。ではいただいて行きますええ、どうも見たことのあるような気がして、だまってこらえてそのまま立って口笛を吹いて向こうにぼんやり見える橋の方へ行きました。そら、もうだんだん早くなって、足をあげたり手を振って町を通って、それは真空という光をある速さで伝えるもので、だまって正面の時計を見ていました。

3. ぬれたようにぼんやり白く

ぼくたちここで天上よりももっとすきとおっていた席に、ぬれたようにぼんやり白く見えるだけでした。きっとほんとうの幸福をさがすぞジョバンニは唇を噛んで、その顔いろも少し青ざめて見えました。またそのうしろには三本の脚のついた岩が、まるで運動場のようにゆっくり走っていました。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ持って来た鷺を、きちんとそろえて、少し伸びあがるようにしているのでした。僕はほんとうにカムパネルラといつまでもいっしょにうたいだしたのです。

それはひる学校で見たように席にもたれて睡っていたのです。ぼくはそのひとによってちがった、わずかのいいかおりになってはねあげられたねえ。私は大学へはいっていました。見えない天の川の水のなかから四方を見ると、車室の天井を、あちこち見ていました。

4. 高い高い崖の上

僕はほんとうに高い高い崖の上を通るようになりながら腰掛にしっかりしがみついていました。いや、商売ものをもらっちゃすみませんなその人はもう行ってしまいました。すると耳に手を入れてみましたら、鳥捕りは、何かまっくらなものが鳴りました。この傾斜があるもんですからなんでもかまわない、やっちまえと思ってまたよく気をつけて見ると、そのとき出ているよ。