第1話 美羽と覗きの秘密|
■第1話:はじまりのチャットルーム
「こんばんは、はじめまして……」
少し震えた声で、私はマイクをオンにした。 ライブチャットアプリの画面越し、初めての配信だった。
名前は“美羽”。大学2年生。 まじめで地味な方だと、自分では思っている。 今日の服装も、白いカーディガンに花柄のワンピース。 露出なんてないし、化粧も薄い。 でも、友達に誘われて、ここに登録してしまった。
「なんか、顔、赤くなってます?」
画面に入ってきたのは、“悠人”という名前の男の人だった。 プロフィールに「誠実にお話したいです」とあったから、安心して話しかけてくれたんだと思う。
「いえ……緊張してるだけで……」
「ああ、それならよかった。こちらこそ、声が聞けて嬉しいです」
彼の声は低く、落ち着いていて、どこか包み込むようだった。 さっきまで震えていた胸が、すこしだけ、落ち着いていくのがわかった。
■名前も、生活も、少しずつ明かして
悠人さんは、私の話をよく聞いてくれた。 大学で何を勉強してるのか、どんな本が好きか、ひとり暮らしの不安―― どんな話題でも、「それ、もっと教えて」と優しく言ってくれる。
話しているうちに、なんだか本当に会ってるみたいな気持ちになってきた。 胸がふわふわして、笑うたびに、頬が自然とほころんでいく。
でも、そんなふうに安心しきった空間に、ふと別の通知が現れた。
『八田さん がこのルームを覗いています』
(……のぞき?)
その文字に、背筋がピンと張った。 ライブチャットの機能で、ルームの“覗き見”ができることは知っていたけれど、自分が覗かれる側になるなんて……。
「大丈夫ですか? 急に黙ったような……」
「いえ……誰かが覗いてるみたいで……ちょっと、恥ずかしいですね」
悠人さんは笑った。「それもライブの醍醐味ですよ。きっと、美羽さんの声が可愛いから、ファンがついちゃったんじゃないかな」
■秘密の小窓から、いやらしい視線
(そんなわけない……)
私は心の中で否定した。 でも、それからすぐに“覗きチャット”の方に、ひとつのメッセージが届いた。
──『そのワンピース、ふともも、見えそうだね。』
えっ……?
──『もっと画面の前に寄って。しゃがんでみて?』
まさかの指示。 (そんなこと……できるわけない) 心臓が跳ね上がるように高鳴った。
でも、どうして……?
さっきまで何も感じなかった脚が、今は妙に意識される。 太ももの内側、ワンピースの裾がふれている場所が、じんわり熱を帯びてくる。
「美羽さん?」
悠人さんの声。 私は、慌てて笑顔をつくる。
「す、すみません。なんか、変なメッセージが来てて……」
「もし嫌だったら、ブロックしましょうか? 僕、しっかり守りますよ」
(……守ってくれるんだ) その言葉が、胸に染みた。 だけど、もう一方では、さっきのメッセージが頭に残って離れない。
■内緒の刺激が、身体に染みていく
(しゃがむ……画面の前で……)
絶対、変なことなのに。 なのに――なんで、考えただけで、こんなに胸が苦しくなるんだろう。
また、メッセージが来る。
──『太ももに視線があるの、分かる?』
その一文に、脚がビクッとした。 見られてる。 悠人さんと話してる最中なのに、もうひとつの“視線”が、私をじわじわと追い詰めてくる。
(やめて……でも……) 太ももの内側が、ぞくりと疼く。 そんな自分が怖くて、恥ずかしくて、でも、どこか気持ちよくて。
──『その顔、すごくいいね。もっと赤くしてみようか』
知らず知らず、息が浅くなっていた。 視線を感じる場所が、皮膚のすぐ下で疼いている。
■彼には見えない場所で
悠人さんが、「次回もまたお話できたら嬉しいです」と言ったとき、私は少しだけ遅れて「はい」と返した。
そのときもまだ、覗きチャットは続いていた。
──『次は、もう少し脚、見せてくれる?』
画面を閉じた後も、頭の中にはその言葉が残っていた。
シャワーを浴びても、ぬるく疼いた太ももの奥が、じんじんとしていて。
(わたし、どうしちゃったんだろう……)
でも、確かに感じていた。 誰にも言えない、じわじわと奥に沁みる“視線の痕跡”を。
――こうして、私の“覗かれ開発”は、始まったばかりだった。

