第3話 美羽と覗きの秘密|「感じちゃダメなのに…」

■ライブチャット、三度目の夜

いつものように、静かに部屋の灯りを落とした。

蛍光灯ではなく、ベッドサイドの間接照明。
肌の色がやわらかく見えるように、ほんのりオレンジがかった光。

「こんばんは、美羽ちゃん」

画面に映る悠人くんの穏やかな笑顔。
それを見るだけで、なぜか胸の奥がふっと緩んでいく。

「こんばんは……悠人さん」

前回よりほんの少しだけ、距離が近づいた気がして、私の声もわずかに甘くなっていた。

■“あたたかい会話”と“冷たい視線”

悠人くんとの会話は、心を撫でられるようだった。

学校の話、読んだ小説の感想、初めて飼った犬の思い出。
どれも他愛ないのに、どうしてこんなに満たされるんだろう。

「……なんか、美羽ちゃんってさ。声に癒されるっていうか。ほんとに、安心する」

「そ、そんなこと……私なんか、全然……」

カメラ越しなのに、ドキッとしてしまった。
でも、嘘じゃないとわかるから、余計に顔が熱くなる。

(悠人さんは……やさしい)

その穏やかな時間の裏で、私は一つの視線を感じていた。

――八田さん。

彼は今日も、コメント欄に名前を表示せず、ひっそりと「参加」していた。
でも、美羽のチャット画面には、彼からの“個人メッセージ”だけが、ときおりぬるりと浮かんでくる。

「今夜はノーブラ?」
「さっきから太ももがむずむずしてるでしょ」
「今日は、ちょっとずつ準備してもらうよ。まずは、椅子に深く座って……」

返事などできるはずがない。
でも、彼の“指示”は美羽の身体をじわじわと包み込んでいく。

■準備なんて、していなかったのに

(そんなの……してないのに)

でも、していなかったはずなのに、太ももの内側がじんわりと熱を帯びていくのがわかる。

悠人くんとの会話に集中しようとすればするほど、逆に――意識の奥に、八田さんのメッセージが染み込んでいく。

(ダメ……気づかれちゃう……)

でも、八田さんはあくまで「遠隔」だった。
手を出してくるわけじゃない。ただ、言葉だけ。

だからこそ、声も出せず、逃げ場もなく、身体だけが言うことを聞かなくなる。

「パンティの縁、今、指でなぞってみて」
「音を出さないように、すごく……ゆっくりと」

その命令が届いた瞬間。

私の指先は、恐ろしいくらい素直に、太ももの内側へと降りていった。

■悠人くんに、見られているのに…

「そういえば、美羽ちゃんって……カメラの画角、いつもキレイに収まってるよね」

「え……?」

「いや、ごめん。変な意味じゃないんだ。ただ、なんていうか……後ろの間接照明とか、服の色とか、すごくバランスがいいなって」

(服……)

今日は何も考えずに、黒のキャミソールとグレーのパーカーを羽織っていた。
だけど下は――ゆったりとしたルームショーツ一枚。

しかも、八田さんに言われたとおり、さっきから……自分で……

(悠人さんに、そんな目で見られたら……わたし……)

「ねえ、今パンティの内側に、指先ちょっとだけ入れてごらん」
「気づかれない範囲で、ほんの、2センチ」

(そんなの、ムリ……)

でも、怖いほどに、指が言うことを聞いてしまった。

パーカーの袖口の中で、そっと、ショーツの内側に指がすべり込む。

感触は、冷たいようで、熱くて――
じんわりと濡れていた。

(なんで……なんでこんな……)

■声に出せない「気持ちいい」

「美羽ちゃん? 顔、赤くない?」

悠人くんの声が優しく届く。
彼には、決して悪気なんてないのに。

「だ、大丈夫……ちょっと、お部屋、暑くて」

「そっか、無理しないでね」

その言葉だけで、心が震えそうになった。

(やさしい……)

でも、それと同時に――

「じゃあ、右手はそのまま、左手で太ももをぎゅっと閉じてみて」
「そうすると、指先が……奥の方に、触れるでしょ」

(ダメ……触っちゃ、ダメなのに……)

でも、言われた通りに脚を閉じると、ぴたりと指先が、下の奥の柔らかい部分に触れてしまった。

「あっ……!」

小さく、息が漏れた。

「ん? 大丈夫?」

「……うん、大丈夫」

(もう……私、なにやってるの……?)

■心と身体が、別々になっていく

画面の中の悠人くんは、相変わらずやさしい。

「もし、美羽ちゃんが大丈夫だったら、今度……直接声だけで、通話してみたいな」

「え……」

一瞬、意識が遠のいたように感じた。

でも、それは、嬉しさでもあった。
怖いくらいに――胸の奥がぽっと温かくなった。

「うん……」

返事をした瞬間、ショーツの中で、ぬるりと何かがこぼれたような感覚がした。

そのすぐあと、八田さんから、たった一行のコメントが届く。

「いま、濡れてるよね。カメラじゃ見えないけど、指の感触が証拠だよ」

(……っ!)

まるで見られていたかのようなメッセージに、震えた。

私の身体は、もう、誰のものなんだろう。

■エピローグ:まどろみの中、交錯する気配

チャットが終わって、PCを閉じたあとも、まだ指先が熱を持っていた。

あれだけ感じたはずなのに、どこか物足りない。

いや――
悠人くんに、見られてはいけないはずなのに、もっと、見られたくなっていた。

八田さんは、今日も正体を明かさず、ただただ巧みに、美羽の心と身体を崩していく。

そして次の夜も、またログインする自分がいる。

知られたくない、でも止められない。

美羽の秘密のライブチャットは、まだ終わらない。

1. 白鳥の停車場

わたしはずうっとぐあいがいいよジョバンニは言いました。するとそれは、チョコレートででもこさえたようなすすきの穂がゆれたのです。いま誰もいたようではありませんからな。もうじき白鳥の停車場だよカムパネルラはこおどりしました。この男は、どこかで待っていようかと言いますと、いままでばけもののように、ほんとうにいいことをしたカムパネルラのお父さんも来た。

カムパネルラがきのどくそうにしましたが、あなたはジョバンニさんでしたね。そしてたくさんのシグナルや電燈の灯のなかを汽車はだんだんしずかになってうなずきました。

ジョバンニはなぜかさあっと胸が冷たくなったように思われませんでした。あたしきっとあの森の中から立ってかがやき、その上に一人の寛い服を着て、星めぐりの口笛を吹きました。

2. 三番目の高い卓子

またすぐ眼の下のとこをこすりながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ているときなどは思わず叫びました。草の中につかれているのを見ましたけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。ジョバンニはすぐ入口から三番目の高い卓子にすわったばかりの青年に言いました。

にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ行っておじぎをしました。

ああ、りんどうの花が、そこらには、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、その黒いけむりは高く桔梗いろのがらんとしたんだカムパネルラは、なぜかそう言いながら博士はまた、川下の銀河の説なのですからしかたありませんや。ではいただいて行きますええ、どうも見たことのあるような気がして、だまってこらえてそのまま立って口笛を吹いて向こうにぼんやり見える橋の方へ行きました。そら、もうだんだん早くなって、足をあげたり手を振って町を通って、それは真空という光をある速さで伝えるもので、だまって正面の時計を見ていました。

3. ぬれたようにぼんやり白く

ぼくたちここで天上よりももっとすきとおっていた席に、ぬれたようにぼんやり白く見えるだけでした。きっとほんとうの幸福をさがすぞジョバンニは唇を噛んで、その顔いろも少し青ざめて見えました。またそのうしろには三本の脚のついた岩が、まるで運動場のようにゆっくり走っていました。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ持って来た鷺を、きちんとそろえて、少し伸びあがるようにしているのでした。僕はほんとうにカムパネルラといつまでもいっしょにうたいだしたのです。

それはひる学校で見たように席にもたれて睡っていたのです。ぼくはそのひとによってちがった、わずかのいいかおりになってはねあげられたねえ。私は大学へはいっていました。見えない天の川の水のなかから四方を見ると、車室の天井を、あちこち見ていました。

4. 高い高い崖の上

僕はほんとうに高い高い崖の上を通るようになりながら腰掛にしっかりしがみついていました。いや、商売ものをもらっちゃすみませんなその人はもう行ってしまいました。すると耳に手を入れてみましたら、鳥捕りは、何かまっくらなものが鳴りました。この傾斜があるもんですからなんでもかまわない、やっちまえと思ってまたよく気をつけて見ると、そのとき出ているよ。